東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)133号 判決 1983年3月30日
原告
田口尚義
被告
やまと産業株式会社
上記当事者間の審決取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
特許庁が昭和57年3月30日に同庁昭和50年審判第6891号事件についてした審決を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第1(原告)
原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、請求の原因として、次のとおり述べた。
原告は、特許第568957号「気体による自動制御装置」なる発明(特許出願日・昭和38年3月27日、同登録日・昭和45年3月20日、以下「本件発明」という。)の特許権者である。
被告は、昭和50年7月25日、特許庁に対し、本件特許を無効とする旨の審判を請求し、これが同庁昭和50年審判第6891号事件として審理された結果、昭和57年3月30日、本件発明の特許は無効とする旨の審決(以下「本件審決」という。)があり、その謄本は、同年5月20日、原告に送達された。
しかし、原告と被告は、本件審判の審理終結通知(昭和57年2月19日)を受ける前の昭和57年2月16日、原告は本件発明の特許権について被告に無償で通常実施権を許諾し、被告は本件審判請求を取下げる旨の和解を締結した。
しかし、本件審判請求人(本訴被告)の代理人が当業者から上記和解成立を知らされた時には、すでに上記審理終結の通知を受けていたため、本件審判請求を取下げることができなかつた。そして、その後前記のとおり、同年3月30日、本件審決があり、その謄本が当事者に送達されるに至つた。
したがつて、被告は、本件審決がなされる前に、すでに本件審判を請求する利益を失い、本件審判請求人としての適格性を欠いていたものであるから、その審判請求についてなされた本件審決は違法なものとして取消されるべきである。
第2(被告)
被告は、適式な呼出しを受けたが、本件各準備手続期日及び口頭弁論期日のいずれにも出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しなかつた。
理由
原告主張の請求原因事実は、被告が明らかに争わないものと認められるので、民事訴訟法第140条第1項第3項の規定により、これを自白したものとみなされる。
上記事実によると、被告は、本件審判請求について、本件審決のなされる前、すでに審判を請求する利益を失つていたことが認められ、これによると、本件審判請求事件においては、被告の審判請求を不適法として却下する旨の審決をしなければならなかつたというべきである。
したがつて、本件審判請求事件について本案の審理をして本件発明の特許を無効とした本件審決は、違法なものといわざるをえない。
よつて、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は理由があるものと認めてこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条を適用して、主文のとおり判決する。
(石澤健 楠賢二 岩垂正起)